ファーマコジェノミクスが拓く未来

疫学研究が注目されている

ある特定の地域に住む住民など、世代構造が明らかで追跡調査が可能な集団をコホートと呼ぶ。この集団を長期間に渡り観察し続けることにより、環境と疾患との因果関係などを明らかにする研究分野は「疫学研究」と呼ばれている。

疫学研究の中で、遺伝子情報を収集し、統計学的手法を用いて解析を行う研究が「ゲノム疫学研究」である。ここではまず、個人のカラダに存在する究極の個人情報といわれるゲノムを解析する。そして、健康診断の情報や疾患発症経緯や経過をあわせて分析し、疾患発症に関わる遺伝子を解明する。その成果を疾患予防や治療法の発見に活用しようとする研究である。

ガイドラインの遵守

ゲノム疫学研究では個人情報を扱うため、研究者が遵守すべきガイドラインとして、「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」「疫学研究に関する倫理指針」「臨床研究に関する倫理指針」が国によって定められている。それらの法令及びガイドラインに則って、

 ①参加者への同意取得

 ②個人情報の保護

 ③検体と臨床情報の匿名化

が確保されてはじめてスタートラインにたつ。 そこから、セキュリティ・システムが組み合わされ、大規模多変量解析などの遺伝子統計解析を実施していくことで、臨床情報と疾患関連遺伝子がピックアップされ、研究が促進される。

遺伝子多型の解析

ヒトのDNAの塩基配列において、塩基配列に変化がもたらされ、その変化が遺伝子の働き(表現系)に影響せず、人口の1%以上の頻度で存在する 遺伝子の変異を遺伝子多型という。遺伝子多型を解析することで、疾患を発症するリスクや発症後の進行具合が異なることがわかる。

遺伝子 多型は、薬の反応性にも現れてくる。ある特定の病気の人たちが、同じ薬を同じ量で使用したとしても、その反応はさまざまであり、ある人に反応がなくても、 ある人には強い副作用が発生する場合もある。薬剤(Pharma-)のからだの中における反応を研究する手法は薬理学(Pharmacology)と呼ば れている。

ゲノム解析(genomics)を利用してこの問題の解決策を見出そうとするアプローチは、ファーマコジェノミクス(Pharmacogenomics:PGx)と呼ぶ。

本来であれば、一人ひとりの患者に対して、適切な薬を適切な用量で使用することが必要である。薬の効きやすい体質なのか、それとも効きにくい体質なの か、どの様に作用するのか。しかしながら、通常は、薬を処方される患者自身はもちろん、医師も事前に把握することはほとんど不可能である。患者の体質につ いては、客観的にとらえる手段が少ないのが現状だ。

患者の体質と薬剤の選択

しかし、今後はより患者の体質を科学的に把握したうえで、薬を処方できるようにすることができるようになる。そのための研究手段がファーマコジェノミクスであり、個別化(オーダーメイド)医療の実現の糸口となる。

とりわけ、発症原因が明確でなく、治療方法の選択が複雑な難病の場合、医師にとっても患者にとっても、薬剤の選択は重要である。難病では、患者は薬剤を 長期間摂取し、副作用が与える影響も小さくないからである。このため、医師にも患者にとってものぞまれる難病の分野で、今後はファーマコジェノミクス研究 が進んでいくと考えられる。

研究がすすんで個別化医療が実現した環境下では、患者は治療効果があるか無いか、不安を持ちながら、治療を 開始することはない。精神的負担が軽減されるとともに、治療法選択までの期間が格段に短くなる。また、治療法をスムーズに選択できるため、それまでのプロ セスでかかっていたコストが軽減され、医療費の削減にもつながる。ファーマコジェノミクス研究は、これからの医療に大きな役割を担う分野と期待されてい る。

ヒュービットジェノミクス株式会社では、コホート研究でのゲノム疫学を出発点に、現在、ファーマコジェノミクス分野に力を入れてい る。具体的には、慢性疾患患者への薬剤選択にゲノム解析を取り入れる研究開発を行っている。近い将来、慢性疾患患者の精神的な負担を軽減し、社会全体での 費用負担軽減に寄与できるものと考えている。

(ヒュービットジェノミクス株式会社 マネジャー 三宅真澄)

2009年7月 1日|